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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(あ)1474号 判決 1954年1月14日

本籍

銚子市竹町一五二八番地

住居

同市清水町二九一二番地

土木建築請負業

高橋寅松

明治三九年七月二二日生

右に対する傷害、暴行、脅迫被告事件について、昭和二五年一〇月二六日東京高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人日沖憲郎の上告趣意第一点について。

所論は、判例違反をいうが、所論引用の当裁判所の判例は、旧刑訴における判例であつて、本件のような新刑訴における控訴事件(ことに刑訴三七九条参照)には適切でない。しかのみならず、原判決は、所論林証人の伝聞供述を爾余の関係証拠の信憑性を補強するためのものである故を以て第一審判決に影響を及ぼさないと解したのではなく、該「伝聞供述」自体を除いても爾余の関係証拠で原判示第三の事実を認定するに妨げないから判決に影響を及ぼさないものと解したことは、その判示に照し明瞭なところである。されば、林証人の伝聞供述が仮りに所論のごとく、補強証拠ではなく、本件犯罪の構成要件たる事実に対する直接且つ重要な証拠資料であるとしても、原判決の判断の結果に影響を及ぼすものではない。それ故所論は採用できない。

同第二点について。

所論は、違憲をいうが、単なる訴訟法違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、所論伝聞にわたる点は、原判決説示のごとく記録に照しその供述中如何なる部分が伝聞にわたるかを判断するに難くはないから、訴訟法違反も認められない。

弁護人一瀬房之助の上告趣意について。

所論第一点は、単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、所論第一、第二の起訴状の冒頭に所論の記載のあることは、論旨の指摘するとおりである。しかし、被告人の前科でも、それが公訴犯罪事実の構成要件になつている場合(例えば常習累犯窃盗)又は公訴犯罪事実の内容となつている場合(例えば前科の事実を手段方法として恐喝)等は公訴犯罪事実を示すのに必要であつて、これを記載することはもとより適法であることは、当裁判所大法廷の判例とするところである(昭和二七年三月五日大法廷判決判例集六巻三号三五一頁以下)。そして、本件第二の起訴状冒頭記載の「被告人は博徒の親分であるが」との記載は被告人の経歴を示したもので、裁判官に予断を生ぜしめるおそれある事項に当らないし、また、本件第一起訴状冒頭記載の所論事項は本件脅迫の犯罪事実の内容をなすものと認められるから、前記当裁判所大法廷判決の趣旨に従い、これを起訴状に記載することは差支えないものといわなければならない。それ故、所論第二点は、採用できない。また、同第三点は、事実誤認の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして記録を調べても、本件につき同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて、同四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔)

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